Almond Eye

競馬コラム  |  名馬伝説

記録は彼女のあとに、 全て書き換えられた。

GI 9勝・牝馬三冠・世界レコードの全記録

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01

短距離王の血と、女王の母を持って

2015年3月10日、北海道のノーザンファームで一頭の鹿毛の牝馬が生まれた。父はロードカナロア。安田記念・スプリンターズSを連覇した、平成最強の短距離王である。母はフサイチパンドラ、エリザベス女王杯を制した名牝。母父はサンデーサイレンス——日本競馬を変えた歴史的種牡馬の血まで遡る、最高峰の配合だった。

生まれた仔馬には、左目の周りに白い模様があった。その形状が「アーモンド」を思わせるところから、アーモンドアイと名付けられる。シルクレーシング(一口クラブ)の所有馬として、名門・国枝栄厩舎へ。アパパネで2010年に牝馬三冠を達成した名伯楽が、再びクラシックの頂点を狙える素材を手にした瞬間だった。

「短距離王の父、GI馬の母、そしてサンデーの血。これだけ揃った馬は、なかなかいない」——血統表を見た時点で、関係者の期待は最大級だった。

鞍上にはクリストフ・ルメール。フランス出身でJRA所属となった世界的名手は、彼女のキャリアの大半に騎乗することになる。国枝厩舎・ルメール騎手・アーモンドアイ——この三角形が、日本競馬の常識を次々と書き換えていく。

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02

静かに、しかし圧倒的に。
異次元の走り

アーモンドアイの走りは、派手さよりも「効率」だった。無駄な動きがなく、まるで定規で線を引いたような直線的な脚運び。最大限のスピードを、最小限のエネルギーで生み出す——競走馬として理想に近い、ほぼ完成形と呼ぶべきフォームを持っていた。

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究極のフォーム

無駄のないストライド、効率的な脚の運び。多くの名馬が「特徴的な走法」で人々を魅了したのに対し、彼女は「完璧であること」そのもので魅了した。教科書のような走りだった。

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気品と冷静さ

パドックでも厩舎でも、終始落ち着いていた。気性難の名馬が多い中、彼女は淑女のような佇まいで、本番では一切ブレずに能力を出し切った。「賢い牝馬」の典型だった。

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距離と環境への適応

マイル(1600m)から2400mまで、芝の高速馬場からドバイの異環境まで、すべての舞台で勝利を収めた。「条件を選ばない強さ」——それこそが、彼女が歴代最強候補と呼ばれる所以だった。

国枝栄調教師は、アーモンドアイを「完成された馬」と評した。デビュー当初から大きな伸びしろを必要としない、すでに完成形に近い才能。それを、無理なく丁寧に使い続けることが、彼女のキャリアを長く保たせた最大の理由だった。陣営の細やかな管理が、9つのGIタイトルを支えた

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03

9つのGI、
そして世界レコード

2017

デビュー、シンザン記念優勝。
新馬戦で勝利、新潟2歳Sは2着。年明け初戦のシンザン記念で重賞初制覇。クラシック路線の有力候補として浮上した。

2018.4

桜花賞優勝、GI初制覇。
阪神の3歳牝馬最高峰を制覇。完璧な末脚で、世代の牝馬の頂点へ。

2018.5

オークスをレコードタイムで圧勝。
東京の2400m。2分23秒8のレースレコードで圧勝。距離適性の幅広さを早くも証明した。

2018.10

秋華賞優勝、牝馬三冠達成。
京都で秋華賞も制し、史上5頭目の牝馬三冠馬に。同世代に敵なしの圧倒的な強さを見せつけた。

2018.11

ジャパンカップ、世界レコード。
東京2400m、2分20秒6。当時の世界レコードを叩き出して優勝。3歳牝馬が古馬の国際GIで世界記録——もはや言葉を失う偉業だった。

2019.3

ドバイターフ、海外GI制覇。
海外初遠征で見事に勝利。ドバイの夜空の下、日本産の牝馬がGIタイトルを獲得した。

2019.10

天皇賞・秋優勝。
牡馬混合の秋の盾を制覇。古馬の頂点へ到達。GI6勝目となり、当時の歴代日本馬の最高峰の一頭に。

2020.5–6

ヴィクトリアマイル制覇、安田記念2着。
マイル戦線でも力を発揮。安田記念は2着だったが、4歳になっても衰え知らずの存在感を示した。

2020.10

天皇賞・秋、史上初の連覇。
JRA史上初の天皇賞・秋連覇。これでGI8勝目。記録更新は止まらなかった。

2020.11

ジャパンカップ、三冠馬3頭対決を制す。
無敗の三冠馬コントレイル、無敗の牝馬三冠馬デアリングタクト——「世紀の対決」と呼ばれた一戦で、アーモンドアイが堂々の勝利。GI 9勝目で日本記録更新。ラストランを最高の舞台で飾った。

2020 引退

現役引退。通算15戦11勝、GI 9勝という空前の戦績。ノーザンファームで繁殖牝馬入り。日本競馬の新たな時代を、母として支えていくことになる。

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04

なぜアーモンドアイは、
「歴代最強」の議論を変えたのか

日本競馬において「歴代最強は誰か」という議論は、長らく決定的な答えを持たなかった。シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクト、テイエムオペラオー——それぞれの時代の最強馬がいたが、誰が一番強いかは結局「趣味の問題」だった。

アーモンドアイは、その議論の地図を書き換えた。GI 9勝という当時の最多記録、ジャパンカップ世界レコード天皇賞・秋初の連覇三冠馬3頭対決の制覇——記録のひとつひとつが、過去の歴代最強候補たちの戦績を直接的に超えていた。

しかも彼女は牝馬だった。長らく日本競馬では「牝馬は牡馬に勝てない」「古馬になると牝馬は通用しない」という常識があった。ウォッカが牡馬混合GIを制した時も「特例」とされた。だがアーモンドアイは、その常識を完全に終わらせた。彼女以後、日本競馬で「牝馬だから」という限定はほぼ意味を持たなくなった。

強さに性別はなく、年齢もなく、ただ完成度だけがあった。

もう一つ重要なのは、彼女のキャリアが「危なげなさ」で貫かれていたことだ。多くの名馬が、激闘で消耗したり、故障で離脱したり、気性問題でやらかしたりする。だがアーモンドアイは、ほとんどそのような場面を見せなかった。淡々と、しかし圧倒的に、勝つべきレースを勝ち続けた。これが彼女の唯一無二の魅力でもあった。

シルクレーシングという一口クラブの所有馬として、何万人ものファンが「自分の馬」として彼女を応援した。クラブ法人化が進む現代日本競馬において、彼女は「みんなの馬」でもあった。一頭の馬の活躍が、これほど多くの人に共有された時代は、それまでなかった。彼女の偉業は、技術的にも、社会的にも、新時代の幕開けを告げる出来事だったのである。

Almond Eye

記録のすべては、彼女のあとに更新された。

歴代最強の議論は、彼女から始まる時代に入った。