Forage

競馬コラム  |  馬を知る

あの巨体は、 草の上に立っている。

粗飼料・濃厚飼料・水 — 馬の食卓の全記録

SCROLL
01

馬は、一日中食べ続ける生き物だ

まず大前提から始めよう。馬は完全な草食動物である。野生の馬は、一日のうち16〜18時間を、ただひたすら草を食み続けることに費やす。私たちが「食事」と呼ぶ営みは、馬にとって生活そのものなのだ。

その理由は、体の構造にある。馬の胃は、あの巨体に対して驚くほど小さい。一度に大量に詰め込むのではなく、少量を絶え間なく送り込む——それが馬という動物の設計図だ。だから「朝・昼・晩に腹いっぱい」という人間流の食べ方は、馬にとってはむしろ不自然で、体に負担をかける。

「馬は満腹のために食べるのではない。食べ続けるために、生きている。」

この一点を理解するだけで、馬の餌の話は驚くほど見通しがよくなる。すべては「少しずつ、長く、草を中心に」——その原則の上に組み立てられている。

✦ ✦ ✦
02

食卓は、二つの柱で
支えられている

馬の餌は、大きく二種類に分けられる。一つは食事の主役となる粗飼料(そしりょう)。もう一つは、エネルギーを補う脇役の濃厚飼料(のうこうしりょう)だ。

🌾

粗飼料 — 食卓の主役

いわゆる「草」。乾草(チモシー、アルファルファ)、放牧地の生草、稲わら・麦わらなど。中でもチモシーは、馬にとって理想的な牧草として世界中で使われている。馬の食事の土台は、常にここにある。

🌽

濃厚飼料 — エネルギーの脇役

燕麦(オーツ麦)、大麦、とうもろこし、栄養を整えた配合飼料(ペレット)など。競走馬や乗用馬のように運動量の多い馬には、この濃厚飼料を増やして消費するエネルギーを補う。

🥕

おやつ — 心を通わせる一口

にんじん、りんご、少量の角砂糖。馬とのコミュニケーションの潤滑油になる。ただし与えすぎは禁物。あくまで食卓の「ご褒美」であって、主食ではない。

バランスの黄金律はシンプルだ。主役はあくまで草。濃厚飼料は、その馬が「どれだけ動くか」に応じて加減する脇役にすぎない。脇役が主役を食う食卓は、馬の体を壊す。

✦ ✦ ✦
03

馬の一日を、
食卓から眺めてみる

EARLY MORNING

朝の最初の草。
夜の間に空いた胃を、まず粗飼料で満たす。一日の食事は、穀物ではなく草から始まるのが鉄則だ。

MORNING

運動と、その後の補給。
調教や運動を終えた後、消費したエネルギーに応じて濃厚飼料を与える。働いた分だけ、脇役の出番が増える。

DAYTIME

放牧、あるいは乾草を絶やさない。
馬の胃は空になると不調を起こしやすい。日中も草を切らさず、「常に少し食べている」状態を保つことが理想とされる。

EVENING

一日で最も大きな草の食事。
夜は長い。寝ている間も少しずつ食べられるよう、夕方にたっぷりの粗飼料を用意する。一日の締めくくりも、やはり草だ。

ALL DAY

水は、いつでもそこにある。
馬は一日に30〜50リットルもの水を飲む。浴槽のおよそ三分の一の量だ。新鮮な水がいつでも飲める——それが食卓の隠れた主役である。

✦ ✦ ✦
04

愛情のつもりが、
毒になることがある

馬を前にすると、つい何かを食べさせてあげたくなる。だが、その善意が命取りになることがある。馬にとって有害な食べ物は、私たちの食卓の中にも潜んでいる。

ネギ・玉ねぎなどのネギ類、じゃがいも、トマトの葉や茎、そしてチョコレート——これらは馬に与えてはならない。人間には日常の食べ物でも、馬の体は分解できず、深刻な中毒を起こすことがある。

馬に何かを与える前に、問うべきことは一つ。「これは、本当にこの馬のためか」

もう一つ重要なのは、急に餌を変えないこと。馬の消化器官は繊細で、餌の急変は疝痛(せんつう)という命に関わる腹痛を招きかねない。新しい餌に切り替えるときは、何日もかけて少しずつ。馬の食卓は、急がば回れの世界だ。

結局のところ、馬の餌を貫く原則はたった一つに集約される。草を中心に、少しずつ、変化はゆるやかに、水を絶やさず。この四つを守るだけで、あの大きな体は健やかに保たれる。シンプルであることこそ、馬の食卓の最大の知恵なのだ。

Forage

あの巨体は、特別な何かでできているわけではない。

ただ、大地の草と、清らかな水の上に立っている。